Web Accessibility Advent Calendar 2015、10日目の記事です。
昨日9日目の記事は @chabin_desuga さんの「0か1かじゃない!」でした。
初めてこの Advent Calendar に参加する @nintaro こと qumiko totoco です。
今回はこれからアクセシビリティを勉強したい、取り組みたい、周りを巻き込みたいと思っている方へ向けてのポエムを書いてみます。今後の取り組みへのヒントになれば幸いです。
そして、あいも変わらず長文です。
画面の向こうにあった未知の世界
私は静岡県西部の制作会社でWebデザイナーとして10年ほど勤務していました。
業務内容はサイト制作全般から社内ドキュメントの作成、品質管理、業務改善、後進指導などなど。前職の最後の1年間は東京(のすぐ隣)に住んでいました。
2011年に出産のため退職、2年休職したのち、現在は半勤半フリーな感じで受託案件のデザインとマークアップを主に担当しています。最近はようやく休職していた間の技術進歩についていけるようになったので、Webアクセシビリティの勉強を再開したばかりです。
そんな私がアクセシビリティの関心を高めるきっかけとなったのは時をさかのぼって今から10年とちょっと前、まだテーブルレイアウト全盛のころ。私はとあるシニア向け芸能コンテンツの運営を担当していました。
あるとき、サイトリニューアルを目的とした利用者アンケートを行いました。300件くらい集まったでしょうか。自由記述の項目があり、一つひとつを興味深く読んでいくと、「このサイトは画像の代替テキストがちゃんと入っていて使いやすい」というメッセージが目にとまりました。それは視覚障害者と思われる方からのメッセージでした。
「代替テキストは何かしら入れておく」、その程度の認識だった当時の私が受けた衝撃は計り知れず。何の気なしに入れていた代替テキストが想像を超えた役割を果たしている、画面の向こうに未知の世界(閲覧方法)があるということを知り、Webアクセシビリティの門を叩いたわけです。
それは「JIS X 8341-3」が公示され、「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針 第2.0版」が注目を集める少し前のことでした。
容易になった“知らない世界”を知ること
しかし、このようなWebアクセシビリティを考える原体験を持つことはなかなか無いと思います。障害者や高齢者の方がインターネットを利用する場面に、日常生活の中でいったいどのくらいの方が出会えるでしょうか?
私が勉強を始めたころ、手に入るWebアクセシビリティ関連の情報といえばテキストのWebサイトが主でした。でも今は手の中の端末でも簡単に映像として見ることができます。原体験を持つことは難しくても、そういった映像などで“知らない世界”があることを知ることは容易です。
今や、書籍やインターネット上でさまざまなWebアクセシビリティの情報や知識が豊富に手に入ります。その知識を使ってWebサイトを制作し、公開します。しかし、あなたにはその画面の向こうに在る人々の姿が見えていますか?
小さな制作現場とWebアクセシビリティと私
ここまでで言いたいことの8割方は書いてしまったのですが(笑)、もう少し具体的なことを話しましょう。
- 制作現場での取り組み方がいまいち分からない
- アクセシビリティの重要性が周りに理解されない
- マークアップするスキルが足りていない
今年、セミナーやインターネットで情報収集をしていて、このようなことを見聞しました。10年前と悩むことはあまり変わってないなーとも思いましたが、業界内の世代がひと周りしてるんですから当たり前なのかもしれません。
で、前職の時ってどんなことに取り組んでいたっけ…と3つほど思い返してみました。
1. チームみんなで“かみ砕いた”社内ガイドラインを作る
私が当時所属していた制作チームは約10名ほど。デザインからコーディング、プログラムの設置、公開まで一人のデザイナーが担当するスタイルです。各々が好きなようにファイル名を付け、マークアップをし…というカオスな状況だったため、社内ガイドラインを早急に作る必要がありました。それは命名規則からディレクトリ構造、そしてアクセシビリティ対応まで。
このとき参考にしたのは、前述のJIS規格と富士通の指針でした。
まずは社で受ける案件の傾向を把握し、これらのガイドラインを基に“最低限”担保する項目を選定しました。クライアントは地元中小企業が多く、今でいう AAA レベルを求められることはほとんどなかったため最低限の対応からやろうという感じでした。
まずは私がざっと項目を洗い出し、チーム全員で詰めていきました。小さなチームでは全員の意見を反映し、方向性や目的を明確にした方が運用しやすいのではないでしょうか。
2. 後進指導は文書を作るところから
Web未経験デザイナーの指導を担当したときは、「文書を作る」ところから始めました。
最初はクライアントから提供された素の原稿をWeb向けにアレンジする練習だったのですが、悪い癖でいつのまにか HTML のマークアップを意識した内容になってしまい…(笑)。
Webアクセシビリティは適切なマークアップが基本だと考えています。「マークアップがおかしい = 文書構造を意識(理解)していない」を解決するためにも、これはこれでよかったのかな…と今となっては思います。
ちなみに、当時の参考書はFOM出版の「よくわかるシリーズ」です。
3. Web以外にも目を向けてみる
これは個人的な趣味なのですが、日常生活のあらゆる面での不便をどうしたらいいだろうと考えます。トイレのリモコンやガソリンスタンドのタッチパネルなどなど。子供がまだ小さいのでその行動を観察したり、コミュニケーションをうまく図るにはどういう解決策があるかな…と、日々試行錯誤しています。アクセシビリティと無縁のようですが、「問題発見力」のトレーニングといった感じでしょうか。
まとめ
今回は障害者・高齢者寄りの視点になってしまいましたが、閲覧環境が多様化して“誰がどんな環境で見ているか分からない”現在、Webアクセシビリティが求められる範囲はますます広がっています。最近では私もスマートフォンで小さい文字を見るのが辛いときがありますからね。ピンチアウトで拡大できないときの悲しさと苛立ち(笑)。若いと多分あれ辛くないんでしょうね。
私は退職前後に東京での被災、出産、入院、身内の死…と自身の中で一番濃い体験をし、生きること、死ぬこと、折り合っていくこと、優しくあること…いろいろと考えました。その延長として、Webにおいてはアクセシビリティへの関心が今なお尽きません。
しかし、私の周りではWebアクセシビリティへの関心はまだまだ高いとはいえず、そもそも認知されているのか?という状況です。私も足りないところいっぱいですし。そんな訳で、来年はWebアクセシビリティをゆる〜く雑談できる場が作れたらいいなぁ…と、一人で思っているところです。
静岡西部近隣(それ以外でも)でWebアクセシビリティに興味のある方、@nintaro , info@totoco.orgまでご一報ください。一緒に勉強しましょう。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。明日11日目は momdo_ さんです。
「いつもの制作に、ほんのひとつまみのハート(想像力)を」。
現場からの長々としたポエムは以上です。